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女性の活躍に向けて、自分なりの価値観を持ってどんどん意思表示を

 株式会社スパイスボックス 執行役員 カンパニー長  物延秀さん

日本初のデジタルエージェンシー(デジタル広告代理店)として創業し、業界をリードしながら13年の歴史を歩んできたスパイスボックス。デジタルを使った広告コミュニケーション分野でさまざまなサービスを展開し、日本を代表する大手企業のブランディングを手がける同社。そのカンパニー長である物延秀(もののべ しゅう)さんに、現在注力している新しい事業分野についてや、同社におけるダイバーシティの考え方、制度などについて伺いました。

どれだけ生活者に“語られるか”が情報の価値を決める時代

-スパイスボックスの事業内容について教えてください。

当社は2003年に日本初のデジタルエージェンシーとして設立して以降、デジタル領域の総合広告代理店として、日本を代表する大手企業のさまざまな広告コミュニケーションを手がけてきました。しかし、デジタルコミュニケーションを取り巻く環境が変化するなかで、何でも代理販売する“総合”から、これからのコミュニケーションに必要なソリューション提供にフォーカスした事業へとシフトチェンジしました。今、当社が注力しているのが、ソーシャルメディア(Facebook,TwitterなどのSNS)を通じて各企業やブランドのブランディングを行うエンゲージメント・コミュニケーションです。

スマートフォンやSNSの浸透により、今やデジタルを通じたコミュニケーションは私たちの生活の根幹になりつつあります。こうした市場環境の変化を受け、私たちはこの広告コミュニケーション分野のなかでも最も新しく、今後もダイナミックな発展が予想される“エンゲージメントを中心としたコミュニケーション”分野にフォーカスすることにしたんです。

「エンゲージメント」とは、簡単に言うと、SNS上で投稿されたコンテンツから発生する口コミ(※)のこと。コンテンツが口コミを発生させることを「エンゲージメントする」と表現します。より高いエンゲージメントを獲得する広告コミュニケーションをいかに生み出すか、その戦略立案からクリエイティブの制作、効果検証、PDCA運用までをワンストップで行っています。
(※)スパイスボックスの独自ツールにより、SNS上で投稿されたコンテンツのいいねやシェア、コメント、リツイートなどの総数をカウントして算出します。

今は、世界的に見るとGoogleとFacebookの2大プラットフォーム時代です。特にFacebookに代表されるSNS上では、どれだけエンゲージメントさせることができるか、つまりどれだけ生活者にそのコンテンツについて“語ってもらう”ことができるか、が情報の価値を決めています。

簡単に言えば、2010年以前のデジタルコミュニケーションの主流は、企業のWebサイトを制作してバナーやリスティング(検索連動)広告を使ってサイトに集客し、その結果をアクセス解析ツールで分析するというのが、私たちの大まかな仕事でした。しかし、SNS時代の現在では、SNS上で生活者の共感を呼び、より多く“語られる”クリエイティブを生み出し、その成果を戦略的に分析してPDCAを回す能力までが問われはじめているのです。

-具体的には、どのようなサービスを提供しているのですか?

当社で提供している代表的なサービスは、ソーシャルリスニング(※)を活用したブランド調査・分析から、分析結果をもとにしたクリエイティブの制作、コンテンツのメディアへの配信、独自ツールによる効果計測をワンパッケージで提供する『BRAND SHARE』やSNSアカウントを持つ一般生活者を活用したインフルエンサーマーケティング支援サービスの『TELLER』などがあります。
(※)SNS上で生活者の口コミや行動内容を分析して、各ブランドや業界などの評価やトレンドなどを探る分析手法。

ただ、専門用語が多くて分かりにくいかもしれませんね。基本的には、SNSを上手く活用することで、企業、ブランドの話題、評判形成を行う広告コミュニケーションを作り出しているということです。

-御社の手掛けた事例は、どんなものがあるのでしょうか?

直近の事例としては、株式会社LIXIL様が『BRAND SHARE』を利用して実施した動画コンテンツの事例があります(動画はこちら)。これは、LIXIL社のシステムキッチン、「セラミックトップキッチン」の熱やキズ、汚れに強いという製品品質をユーザーに訴求するために制作した動画です。「料理」をキーワードにソーシャルリスニングを行った結果、生活者は「ビジュアルコミュニケーションも料理の楽しみの一部」ととらえていることが分かりました。

要するに、フォトジェニックな料理を作って、SNS上でシェアして楽しんでいるということですね。その意味では、シェアしたくなるような面白さがあるためか、失敗した料理の写真のエンゲージメント数が高いことも分かりました。それらを踏まえて、楽しく見られる失敗料理の映像や料理や具材のなかでミニチュアたちがキャンプをしているような、フォトジェニックでシェアしたくなる動画コンテンツを制作しました。映像の最後には、料理中にワークトップの表面を傷つけたり、汚しても大丈夫というメッセージが入っています。

これをFacebook、Twitter、YouTube、バイラルメディアのgrapeなどで配信したところ、多くのユーザーから興味、共感を集め、当初の予想をはるかに上回る高いエンゲージメントを獲得することができました。(※上記情報は2017年4月現在)

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社会に対して純粋に、正直に向き合う

-物延さん自身はどんな経緯でスパイスボックスに入社したんですか?

元々は、映画や広告などで映像表現をする仕事がしたくて多摩美術大学で学んでいました。ちょうど自身が大学生になったなったばかりの2002年前後は、サイバーエージェントが上場したり、ライブドアが話題となった時代です。インターネット広告が既存のマスメディアを飲み込むかと言われるような大きな社会的変化があり、学生ながらにワクワクしたのをよく覚えています。

ただ、当時の国内におけるインターネット広告というのは、いわゆるバナーや検索連動広告が大半でした。そうした、小さな枠にとらわれ、表現の幅が狭い日本のインターネット広告への疑問と、それとは反対にすでに動画による広告表現などが模索されはじめていた海外の先進事例を見て、純粋にデジタルを使ったダイナミックな広告コミュニケーションに憧れたことがきっかけです。

そうした仕事ができる企業を探していて、人づてに出合ったのがスパイスボックスでした。社員が10人程度の時期で、新卒採用もしていなかったのですが、自ら門を叩いて入りました。

-仕事をする上で物延さんが大切にしている、哲学のようなものはありますか?

哲学というほどではないですが、純粋に、正直に、社会と呼応するということを大切にしています。自分の勝手な思い込みに引っ張られるのではなく、例えば、ある事象について、世の中がどう変わろうとしているのかを純粋にとらえたい。怒りを覚えるのでも賛同するのでもいいのですが、そもそも社会と向き合わなくては何も生まれないと思っています。

そういう意味では、学生の頃に映像を作っていた頃とスタンスは変わっていません。映像作品を作るにしても、社会で起きていることに対して、“自分がどう感じるのか”というのが最初にないと、何かを生み出す動機につながらないですから。

今は企業と向き合って広告コミュニケーションをつくる立場であり、顧客の要望や収益など考慮すべき点はたくさんあります。しかし、何を置いても、今この社会環境において何をメッセージングすべきなのかを無視してコミュニケーションを設計しても、パフォーマンスにつながらないと思っています。今「この企業が、この商品・サービスを世の中に出す意味とは何か」を考えずにスペックやイメージ訴求としての広告を作っても、生活者に“語られる”コミュニケーションにはなりません。

当社の広告コミュニケーション設計の起点がソーシャルリスニングであるのも、このスタンスがあるからです。できるだけ純粋に社会と呼応することを大切にしています。

-そういう視点を持つために会社のなかでしていることはありますか?

当社には、自社メディア「newStory」があります。このメディアでは、その時々の社会共通の課題や話題(SNS上でエンゲージメントしている事象)を取材し、ドキュメンタリー動画コンテンツとして発信しています。自分なりの視点で世の中を切り取って題材を選び、コンテンツとしてソーシャルメディアでエンゲージメントを生み出すような、メッセージを込めることを大事にしています。

広告もそういうスタンスであるべきだと思っているので、ストーリー設計のR&Dのような活動として考えています。それこそ、1年後には自分たちがアウトプットする広告も、ドキュメンタリー的なもので溢れているかもしれません。

誰にとっても働きやすい環境づくりが、女性の働きやすさにもつながる

-自社における女性の活躍については、どのような想いをお持ちでしょうか?

基本的に当社の社員は、男性だから、女性だからという性差に関係なく、個人それぞれのビジョンを持ち、能力を発揮しながら仕事をしています。たしかに、性差について、社会的にも綿々と受け継がれた価値観があるのは事実だと思います。

しかし、ソーシャルリスニングでダイバーシティに関する問題を分析する機会に触れるたびに、そうした固定観念が男女に関わらずすべての人々が活躍できる社会を作るうえでボトルネックになっていることに気づかされます。ダイバーシティというのはそもそも、個々によって異なる価値観を許容しようというのが根本の思想だと考えています。

もちろん、当社の仕事においては、女性であることが活かせる部分もたくさんあります。当社の事業は広告業であり、コスメやトイレタリーなど、女性向け商材の広告コミュニケーション企画を担うことが多々あります。そうした場合、やはりターゲットと同じ女性が担当することで女性ならではの視点を活かすことができると思います。

実際に、当社において女性ならではの視点を広告コミュニケーション設計に活かし、活躍している社員は多く、さまざまな企業の広告コミュニケーションを多様な人材が担うことがますます重要になってきています。

-働きやすい環境づくりという意味で、具体的にどんな制度がありますか?

当社では、一定の条件を満たした社員に対して裁量労働制を採用しており、成果を出すための業務の遂行手段と時間配分は、社員の裁量にゆだねています。この制度を上手く活かして、育児や趣味などワークライフバランスを上手に保ちながら仕事をしている社員もいます。

ただし、業務の忙しさに波があることもあるので、どうしても残業が多くなりがちな時もあります。その場合のために、「22時(まで)に完全退社」というルールも決めています。業務効率が上がりやすいと言われる朝型勤務を推奨し、早朝時間(5時~9時半)の勤務に対する手当を支給しています。

そのほか、「SpotAnywhereワーク」という、テレワーク制度を上手に活用している社員もいます。一定の条件を満たした社員が、育児や介護などのために申請して会社が認めれば一定期間は完全に自宅で勤務することができる制度です。

また、休暇制度としては、通常の有給休暇のほかに有給として自身の病気や家族の病気の看護に使える「医療看護休暇」や自身や家族の記念日に使える「アニバーサリー休暇」、勤続3年、5年、10年のタイミングで会社が社員に感謝の気持ちを込めて休暇とインセンティブを贈る「インバケ(インセンティブ&バケーション)」制度などがあります。

これらは、会社での仕事だけではなく、社員自身の生活も大切にしてもらいたいという考え方で実施しているものです。そのほか、もちろん法律にのっとった育児休業制度も整備しています。

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自分なりの価値観を持って、どんどん意思表示を

-最後に、自社の社員の方含め、今後、仕事で活躍していきたいと考えている女性に向けてメッセージをお願いします。

広告業界は長らく男性社会でした。仕事自体もそうですし、働き方としても、フィットするのはそういった“業界のノリ”について来ることができた人が中心だったように思います。しかし、それはもはや時代にマッチしていません。私自身は、時代や社会環境が変化していくなかで、いかにそれが既存の常識的な事柄であっても違和感を感じるのであればスピーディに変えていく必要があると思っています。

こうした変革のタイミングに最も大事なのは、既存の常識にとらわれずに「おかしい」と感じることができるセンスを持つことと、その当事者が意思表示することにあると思っています。当社の社員もそうですが、これから広く社会で活躍していく女性の皆さんには、自分なりの価値観を持って、遠慮なく現在の環境をどう変えたいのか、どう変えるべきと考えるのか、どんどん発信してもらいたいと思っています。

当社の女性社員の割合はまだ3割程度で、そのほとんどが20代前半です。今後は結婚、子育てとライフステージが進み、いろいろなビジョンが溢れてくるだろうと思います。私としては、既存のルールに縛られること無く、メンバーが発信する声に敏感に耳を澄ませながら、色々な制度をスピーディに作ることでより多様性のある働きやすい環境を整備していきたいと考えています。